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8.1.2 リニアック開発に対する意見 一九九七年五月の回想

980311 (水)晴れ、8時10分頃、**子さんは母親の車で***高の発表を見に。10時過 ぎに電話が入る。合格。**さんは落ちたという。昼は3人でデニーズへ。
夕方、Gさんが来る。INRがモニターの設計など行っているのでショックを受けてい た。しかし、普通は巻き込まれてしまうだろう。 昨年4月に高エネルギー物理学研究所は、東大の原子核研究所と一緒になり、高エネルギー 加速器研究機構として新しい出発をした。加速器研究系は、加速器研究施設となり、木原先生が施設長として、放射光施設長から転任されて来た。木原先生が亀井先生の後任として加速器研究系の主幹となられたとき、私は1GeVリニアック構想に関してF先生との間に意見の相違があり、着任早々の先生を訪ねて、F先生とごたごたしているので、当面実務は休ませていただき、将来計画を致しますと宣言したのであった。又、木原先生が放射光施設長として転任される時の1 GeVリニアックグループの歓送会では幹事をして、簡単な詩を送ったのであ る。恥ずかしい作品であるが、読み込み都々逸のようになっている。

(参考:春惜送木原主幹
木もれより 原子の力の元求め 央く世界に光もとめん
木原先生のお名前は元央であり、放射光へ転任された)

木原先生が再び加速器に戻られた直後、私は再び先生にごたごたを報告する羽目になってい た。机の向こうに座られた先生は、私の文に目を落とすと再び私の方を見て、少し笑みを浮かべた。昔を思い出されている事は明らかなので、私は先手を打って、先生にはいつも御迷惑をかけてと言い始めた。以下はその時の全文である。

木原施設長

リニアック開発に対する意見  
                  1997年5月16日 加藤隆夫
Y主幹による最近のリニアック開発の進め方に関して、疑問点を持ちますので、ここに私の意見を述べる事に致します。

基本的な姿勢の問題
1)昨年12月、氏は「三菱に発注したSDTL空洞を途中でキャンセルせよ」と命令しました。私は仕事上の信義に反する事は出来ないと返答した所、「仕事に信義はいらない、君の信義などは仕事の邪魔である」と述べました。「約束を破る事などは、億単位の仕事に比べ れば何でもない」とのことでした。確かに、氏が鍍金問題等で三菱側に示した行動を、少し の情報からではありますが私が判断しますと、氏の言動には三菱側からみて信義はないであ りましょうから、氏の言動は一貫しています。しかしながら、この点は私の考え方とは相反 するものであり、妥協する余地はありません。
更に、「今回は経費の名目が君の名前だから譲るが、今後は私の言うとおりにしてもらう」 と述べました。これは、研究活動において、何の科学的技術的検討を経ないで、自分の言うとおりにせよと述べたものと解釈できる言葉であり、研究者としては到底容認できない問題 であります。
叉、次のように言明されました。

「JHPのリニアックには三菱は絶対に使わないつもりだ から、そのつもりでいてほしい。今は、Bの入札を控えているからおとなしくしているが、 入札が終わったら喧嘩である。」

氏と三菱側との間に何があったかは詳しくは知りませんが、 双方に言い分はあるのでありましょう。そうした争いを陽子リニアックに持ち込まれては、迷惑至極であり、氏の絶対に使わないという意思の表明は、明らかに裁量権からの逸脱といえます。

2)昨年、リニアックグループは特別経費を申請しておりました(申請自体は1月頃行った記憶があります)。その後、5月もしくは6月位までの数回のリニアックミーティングにおいて、その年度の予算の話になったおり、氏は「今年度は予算が少なくて、イオン源の追加分とRFQの加速関連にしか回せない」と述べました。それに対して、リニアック空洞関係にも多くの必要な研究があり、少しはまわしてくれないと困ると述べ、RFQ加速を2年にわたるようにして、少しまわしたらどうかという提案を致しましたが、氏は反対されました。 こうしたやりとりがあって、昨年度はなんの経費もないとあきらめたわけであります。ところが12月の伝票締め切りの数日前に、契約の桐原さんより、特別経費(私分)の970万関連伝票が何も提出されていないがどうなっていますかとの問い合わせが私宛てにありまし た。年初に申請した特別経費が認められていたわけであります。氏に問いただした所、「君に通知する事を何かの都合で忘れていたのであろう」と述べ、「私も悪かったが、聞きに来ない君の方がもっと悪い」と述べました。氏が言わんとする事は、いつそうした事が決まるのか何の情報もない者が、例えば一月ごとに問い合わせをせよといい、叉、公式のミーティングでは、そうした経費が認められていることを自分自身では公表しないという事を意味します。高田総主幹との間で、この経費を分割して使う事を決めていたという話もあり、私は、こうした氏の言動は、管理職として不適切と思います。

3)昨年ロシアINRのクラブチュク氏が滞在のおり、リニアック開発についての契約をしたと聞いております。彼の帰国後、INR担当者よりリニアックデザインに関する問い合わせの e-mailが、私宛に来て、それを知りました。そこで、氏にその契約書を見せるように要請しましたが、2度とも拒否されました。その内容の説明も曖昧でありました。その契約なるものにより、私は直接の窓口として相手からメイルを受けているわけであります。直接の関係者に契約の中身を見せないという正当な理由がありうるのでしょうか。

以上述べたように氏の最近の言動には、不信感を抱かざるを得ない部分が多くあり、猛省を求めるものです。

技術的な問題

最近の内輪の会議において、氏は、「ロシアとのモデル空洞製作の契約を5月のPACにてINR 担当者とする予定である」とのべ、その簡単な説明をした上で、「この計画を進めて、テ ストスタンドでモデル空洞に高周波電力がうまくはいれば、SDTLはロシアで作る事になるがよろしいですね」との話がありました。その場で、私は、この段階では、ロシアによるSDTL製作が本命であるとは思っておりませんと述べ、今日聞いた範囲でも技術的問題点が多い事を指摘致しました。
ここで問題となる事は、わずか1セルの空洞を作り、それに充分な電力が入りさえすれ ば、うまくいくのであるという認識の問題であります。氏は日頃から、言明しておりました。まず適当な物を粗く作ってみて、それから、問題点を改善していくのが自分の手法であると。確かに全てが同形のAPSや、作り替えのきく小型の空洞ではその考え方が適用出来 るでありましょう。しかしながら、その場合でも、1セルの空洞の結果をみてAPS 全体を判断するなどという事はおそらくなかったと推測致します。このように、最近の氏の物事の方法には日頃から氏自身が認識しておられたはずの二つの欠陥が、あらわになってきており、 憂慮すべきと思います。
一つは、若い頃から指摘されていたと氏自身が語るようにoverestimae 叉はover-exaggerate の通りの考え方が目立つ事であり、二つめは唯我独尊的傾向です。 私は氏と10年来の付合があります。その間、リニアック製作過程で直面した重要な判断の局面で、氏の技術的見通しが、私と対立した時、その後の結果は、全て氏が誤っていた事を事実は示しています。三つの例をあげます。

1)3 MeV RFQが可能であるとして、設計を進めた私に対し、氏は世界の趨勢と違うという理由により(エネルギーが高すぎると)反対をして、最後には、432 MHzDTLの入射部分に、3 MeVより低いエネルギー入射用のアダプターリングを介在させる構造に修正させました。この結果、非常に短い部分を複雑な構造としたつけが、その後の多くの場面に影響して、余計な苦労のもととなったのです。現在再び氏は世界の趨勢を持ち出して、RFQのエネ ルギーをもっと高くしたらどうかと言っており、チューニングの難しさを主張する私と対立しています。

2)432MHz のドリフトチューブ製作法に関して、1990年過ぎに、見直し作業を行いまし た。その時、もう少しで完成しそうだから、このまま、その技術を更に追及するべしという氏と、どうにもならないから、ここで少し修正して新たな技術を使おうという私の意見が対立して、あくる日の三菱との会議を控えて、夜の9時過ぎまで議論をしました。その結果、 氏は私の主張に同意して、明日の会議では、方針を変更すると約束したのであります。しか し、当日の会議では、最後になって、このままの方針で進めると述べ、おかげでその後、約2年の無駄な開発研究をしたのです。結果的には、私が、その当時主張していた通りの方式を採用する事になり、ドリフトチューブが完成致しました。

3)最近RFQの2次元加工による電場のズレが問題となり、U君は、SUPERCOMPUTER で2次元ベインの形状を入れた計算機コードを作るのだとはりきっています。432 MHz RFQ製作当初、私は3次元加工の必要性を主張し、意見が対立しておりました。RFQに関して言えば、3 MeVRFQのモードに関しては、モデル空洞とMAFIA 計算の裏付けがあったわけでありますし、べイン電極に関しては、MAFIA によるべイン形状計算結果が裏付けとなっているわけです。

さて、ロシアとの仕事にあたり、氏はその費用の安さを強調しています。ところが次のような事実があります。 
アセンブリーホールのテストスタンドにはロシア製のバンチモニターが備え付けられ、良い結果を生んでいると思います。しかしながら、当初、これは約1000万で導入との話でしたが、最終的には2300ー2400万になったと聞いています。問題は氏の中にそうした事実の認識が全く念頭になく、最初から2000万であったと言っている事です。この食い違いの詳細は、私の判断外ですが、ロシアが価格的に安いという事は、この例からわかるように、簡単には言えないと思われます。それでは、技術的に信頼できる良いものが期待出きるかと言えば、INR側から提示された簡単な書き物と氏自身が語る情報を、普通の視点から眺めた時には、その解決の為に、多大の時間と努力が必要な問題が山積している内容であります。更に、ロシア自体の政情不安と***の欠如とは、それを自ら指摘した所で、なくなるものではありません。そのよう な恐れのある場合には、その仕事が達成されなくても重大な支障とならない部分から、徐々に仕事を始めるという事が常道と思われます。

いくつかの過ちの経験は次の機会には生かすべきであると思います。私には、悔いが残る決断がいくつかありました。二つ例をあげます。
1)約15年前に角型のRFQを作りました。その時、F先生の角型提案を2日間は、反対しましたが、3日めにとうとう同意してしまいました。多くの方々の努力により、最終的な性能は納得ゆくものが出来ましたが、その過程でのいらざる努力は大変なものでした。
2)これ(RFQ)が伏線となり、40MeVリニアック延長の時には、F先生の的をはずした提案にはことごとく反対して、いらざる軋轢を生じました。しかしながら延長空洞自体はどこに出しても恥ずかしくない出来と思います。その時、空洞以外の点では、まあいいかと妥協してしまいました。例えば20と40MeVの間のドリフトスペースの件です。長すぎる距離を選択してしまったので、その後、一貫してリニアックのチューニングを難しくしており、おそらくビーム損失も引き起こしているかもしれません。

このような経過がありますので、後々まで尾をひくと考えられる問題には妥協しない事に致 しました。例えば、世界の趨勢を持ち出して70 叉は100 MeVから上にCCL を使うという氏の一貫した主張には、私は自分のシミュレーション結果をもとに反対してきたわけです。 

SDTLに関してはもうひとつの側面があります。SDTLは結果的に非常に簡単な構造となっていますから、だれもが考えつく内容の加速方式といえましょう。問題は、この40年以上にわたり誰一人それを提案しなかったという事です。その理由は、タンクの数が増えるわりに、長所が少ないのではないかという危惧と、ビームダイナミックス的にどうかという点、 そしてSDTLの長所が生かせるような要求仕様がなかった事の3点にあると思います。私がこれを中エネルギー用加速管として提案したのは1992年ですが、今回のリニアックデザインに採用するにあたっては、多くの裏付けを取った結果と言えます。氏は、私が本デザインをレポートの形で公表する前に、私には提示を拒否した契約をもとにしたロシアとの共同研究の名のもとに、SDTLに関する設計に必要な細かい情報をINR側に提供させ、今は、 SDTLをロシアに建設させるという方針の如くであります。このような秘密主義と独断専攻型のやりかたは、お互いが研究者であると考えた時には、許されない行為と考えます。なお主観を述べれば、リニアックグループが自分達の手で作る為に、この新型リニアックの為の努力を重ねたのであり、ロシアに設計と建設をお願いする為に努力を重ねたのではありませ ん。

技術的な問題についての意見の相違は、それが進歩の源でもあり、先ほどの例にあげましたとおり、時間をかければ、合理的な方向へ向けて解決される思われます。(但し長い年月が必要でした)。氏と私との間には、いままでにもそうした食い違いが多くありましたが、そこで見せた氏が本来持っている合理性等を尊重する科学的姿勢により、それらは、たんに技術的対立としての側面だけであったと断言出きると思います。しかしながら、最近の氏の以前とは違ってきた仕事の進め方に関しては、今までの基本的な姿勢からの転換が特徴的になって来ました。今後起こりうると予想される類似の問題に対しての私の立場を早い時期に公表する事が、このような大きいプロジェクトの場合には必要であると判断した結果、この 一文を書いております。

まとめ 

仕事に信義は必要なしとの立場に立てば、仕事の場は次第に狭くなっていかざるを得ないで しょう。信義ある者(会社)は去って行き、残された者は仕事がやりにくくなります。過激な参入方針に従って(大企業は1円の入札まで平気でやっています)安く入札する会社を、 大歓迎するという姿勢には、将来の不安がつきまとうと考えます。一過性でない信頼できる技術を育てる重要性が強調されるべきであり、そこに技術審査という障壁の意味があると考 えます。 


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