SNS 超伝導空洞の故障について
○ 2006年6月20日:SNS ASAC(Spallation Neutron Source Accelerator System Advisory Committee) 報告より抜粋
超伝導空洞に関しては、84台の空洞の内、11台が何らかの問題を起こしており、十全な運転ができていない。SNSとしてはこれを重大に受け止めているが、報告者を含め委員の方がむしろ楽観的であった。というのは、トリスタンでも経験した、ガスの吸着によるものである可能性が高く、一旦窒素温度または常温にまで上げたうえ、十分な脱ガスを行えばおそらくほとんどは大丈夫であろうという見解であった。ただし、SNS自身が空洞のテストスタンドを持っていないことの方が問題で、すでに準備に入っているもののできるだけ早く立ち上げるべきであると言う答申になった(超伝導空洞を作ったJefferson LabとORNLとの折り合いが悪くJefferson Labの支援が得られない)。
○ 2007年3月:from ATAC 2007 paper: "Commissioning Experience of SNS"
- ten of 81 cavities were off line
- One was off line because the tuner range was not set properly to bring the cavity on resonance at the present operating temperature of 4.4 K
- The remaining nine cavities were off line due to unexpected signals observed from the higher order mode couplers due to a combination of fundamental power coupling and electron-related or vacuum activity.
- To be conservative we decided to turn off these cavities until the phenomena are better understood.
- The SCL has proved to be remarkably robust to changes in cavity amplitudes and the number of off-line cavities, even for up to three consecutive cavities off line.
意訳:
- 81台の空洞の内、10台は故障によりラインからはずしている。
- その内の一つをラインからはずした理由は、現在の運転温度4.4度Kでは、チューナー領域不足により空洞が共振しないからである。
- 残りの9台の空洞は、高次モードカップラーから観測された予期せぬ信号の為に、ラインからはずした。これは、ファンダメンタルな電力カップリングと電子あるいは真空との連携によると思われる。
- 保守的ではあるが、我々は、現象が一層理解されるまでは、これらの空洞を使わない決定をした。
- 超伝導空洞は、空洞電場の変更や、ラインからはずす空洞の数に対して、極めてたくましい事が証明された。とにかく、連続する3台までは、オフラインになっても大丈夫だ。
以上の報告から以下が読み取れる。
- 超伝導空洞陽子リニアックでは、総数の12パーセント程度は壊れて、運転出来ない状況が有り得る。
- 2006年春当初は、脱ガスすれば回復すると考えていたが、2007年春には、原因がわかるまでは、使わない事にした。
- 超伝導空洞陽子リニアックは、この程度の故障には対応できるタフな空洞だ。
- 2006年春、SNSは重大と受けとめたが、アドバイザリーコミッティの報告者と委員は楽観視していた。
さて、これらの報告に批評を加えると次のようになるだろう。
- 総数に対して、12パーセントの不良品が出れば、普通は深刻な事態と受けとめるであろう。
- 初期のガス吸着が問題であるとすれば、KEKトリスタンの20年前からわかっている問題である。
- 更に解明すべきと考えたという結果から判断すれば、単なる吸着程度の問題ではない可能性がある。
- どこでも、アドバイザリーコミッティは、互いに、お客様対応の存在なのだろうか。
SNSでは、連続する3台の超伝導空洞が欠落した状態で加速されたビームでも、きちんと受け付けるような全体の加速器システムになっているのであろう。3台に相当する空間部分には、縦方向の収束力は存在しない事になるが、そうした影響はどこにも見当たらないのであろうか。その場合に考えられる解釈は以下の三通りである。
- 縦の収束力が3台程度の長い距離にわたり欠落していても、ビームは影響を受けない。
- 前項が否定される場合、後続の加速器の縦アクセプタンスには大きな許容範囲があり、加速結果は全て許容できる。
- そうした変化が検知出来ない運転状況である。