RFチョッパーの位相アクセプタンス


○ RFチョッパーの充分な動作が期待できる位相領域は2002年の測定(ビーム電流5 mA)によれば次の如くであった。

    励振電力 18 kWの時 安定位相の全幅 52度
    励振電力 36 kWの時 安定位相の全幅 96度

この位相幅は、チョッパー動作が最適状態となるようにビームラインパラメータを調整後に、チョッパーの高周波位相を変化させて、BPMモニター出力が変化しない範囲を求めたものである。

最近、第 83 回 J-PARC Linac RF 打合せメモ(2007.8.23 (木) )に不思議な報告が記載されていた。

最適位相の幅が 3°程度しかないとのことだが,チョッパー空洞に入射するバンチ長が長すぎるのではないか? RFQ,バンチャーの調整は十分か?

最適位相の幅が 3°程度とはどういう状態での測定であろうか。かつて、ビームテストに参加していた方は、この差に異常の匂いを感じて、対処しなかったのであろうか。
このような結果が事実とすれば、以下の理由が考えられる。
   1. チョッパー空洞自体のチューニング不充分
   2. チョッパー動作を歪めるMEBT架台の改悪
   3. ビームラインパラメータの不適切な調整(RFQ, バンチャー、四極磁石、スクレーパ位置等)

現状,2 空洞間の U 字管の長さは,つくばのビーム試験時と同様,最短にしてあるが (d = 約1λ),反射 / 透過特性の周波数応答は 0,π/2,π モードに対し左右非対称である.

2 空洞間の U 字管の長さは約1λにしてあるとは、これも不可解である。二つのチョッパー空洞のビームライン軸上の間隔は3xベータxラムダである。従って、片方空洞だけのチョッパー動作を回避するために、同軸管の長さはほぼ3xラムダにしていたと記憶している。
当初のデザインコンセプトに従って、MEBTの前半部分のビームラインは、チョッパー動作を最適化するように製作した。ところが、MEBT架台の作り替えにより、二つのチョッパー空洞をつなぐ同軸管は、最適長さがメカニカルな理由により設定できないと聞いている。チョッパーの最適動作を阻害するようなMEBT架台が何故建設出来るのか、不思議である。組織の中にチェック機能はないのであろうか。チョッパーの良好な動作はRCSに必須とされているのである。


メカニカルな架台の改悪により、チョッパーの最適動作が達成されない場合の、一つの処置法を述べる。
厳密な安定位相幅(測定)の定義:

厳密に云えば、バンチの縦横の広がりは無限大である。従って、チョッパーの最適位相幅はゼロである。これは原理的な蹴り残しが必ずある事による。以上の説は議論としては正しいが、現実的な議論ではない。しかし、少し考えればこうした議論を応用して、リニアック全系のビームの整形が出来る事に思い至るであろう。スクレーパ位置を(蹴られないビームと蹴られたビームの)完全分離の位置から少しビーム軸に近づけてみよう。その場合、条件が悪くなっても、蹴り出されたビームの蹴りの小さい部分が一層カットされる事になり、更に、蹴り出されないビームの裾の広がりの部分が僅かにカットされる事になる。
従って、チョッパーの動作が改善されると共に、後続のリニアックにおいて、正常ビームのハロー部分が減少する効果をもたらす。
このような考え方を背景に、どのようなビームテストのデータを基礎にして、スクレーパの設定位置を決めたのか興味ある所である。
念の為、正常ビームの裾野を僅かにカットしても、その量から考えて、熱的な問題は全く生じない。


参考資料:

KEKでのチョッパービームテストのレポート(PAC2003)

次は、2002年6月のビームテストの最中にWang氏が書いたビームテスト報告:
二つの空洞をつなげた状態(double cavity system)での最初のビームテスト結果であり、充分な最適化を行う以前の状態である。
2002年6月11〜13日のチョッパーテスト報告

2002年6月10日のWang氏のレポート。これはdouble cavity systemのビームテストに先立ち、二つのチョッパー空洞をつなぐRFラインについて報告したもの。
The configuration of coupled cavities

2005年のNIM論文。これは中国科学院高能物理学研究所のWang氏がKEK滞在中の仕事の一部をまとめられたもの。
The development and beam test of an RF chopper system for J-PARC