50 MeV DTLがKEKでは20 MeV までしか完工出来なかった理由とその影響


○ 1998年にKEKで大強度陽子加速器の実験設備の建設が始った頃、入札に関連していくつかの公文書が存在した。入札手続きの最初に公表される「資料招請」の案(筆者作成)の中に、次の文面がある。

●高エネルギー加速器研究機構内の所定のトンネル内に設置して、高周波四重極加速器 (RFQ)により加速されたエネルギー3 MeVでピーク電流30mAの負水素イオンを、所要の高周波電力を使って、およそ58 MeVまで加速できること。

●加速空洞のタイプとして、周波数324 MHzのアルバレ型を主として使用すること。


これから明らかなように、当初は58MeVまで加速するリニアックを建設する予定だったのである。事実経過は次の如くであろう。 ○どうして予算がなくなったのか。これは、あらかじめ決まっていた予算の使途を変更した事が理由の一つであると推定する。1998年のメモに以下の記述がある。

その後、廊下で会ったので彼の部屋で少し話。補正の中から10億程度を他に貸したいという話。私はほとんど拒否の姿勢。2年で作らなければいけないから、そんなに時間的余裕はない。それに貸した分が来年予算につくとは限らないから、所内の話でも気を付ける必要がある。今までどれくらい空手形があった事か。それに担当者がどうのこうのと言う。

結局の所、経費不足の為に、当初計画していた58 MeVまでのビーム試験がKEKにおいては出来なかった事により、大きな問題が未解決のまま、引き継がれてしまった。以下の指摘が出来るだろう。 J-PARCで行われた2007年5月から6月のスタディでは、DTL入射ミスマッチによるDTLの下流部のひどい放射化が生じている。因果は巡り巡っているのであろう。

KEKで行われたビームテスト用の地下トンネル(下図参照)の長さは100メートル程度あるだろう。これは当初計画通りの60 MeV加速用である。

KEKに作られた60 MeV陽子リニアックビームテスト用の地下トンネル。結果的には、長さの1/3程度を、本来の目的に使用した。