レーザー整列法の信号処理
J-PARC陽子リニアックの整列方式は、当初レーザー方式が検討されていた。レーザービームを、4分割したターゲットに当てて、夫々の分割面から得られる信号を比較して、ターゲットの変位を算出するのである。
長さ50メートルほどのテストシステムが構築され、変位測定結果が検討されたが、見た目に違和感があり、目標精度に達しているとは思われない。
筆者の助言は、
生の信号を観測する事から始めて、測定系を再チェックする事であった。
これは、一つの測定システムが構築された後では、引き続いて行われるはずの改良という意味で、当たり前の事であり、なんら目新しい助言ではない。
結果から見て、筆者は判断を間違えてしまったといえる。筆者の感覚では、測定系の再チェックは当然の事として行われると考えていたのだが、担当者は、そうしたチェックをする事なく、レーザーシステムは、精度が足りないと判断を下したのである。
担当者がギブアップしたので、筆者はレーザーシステムを点検した。
図1には改良前の生信号、図2には、ロウパスフィルター改良後の生信号を示す。生信号を観察さえすれば、当然ながらフィルターの改良は視野に入ったはずではないか。
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図1:改良前のロウパスフィルターの出力(レーザーターゲット)信号
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図2:改良後のロウパスフィルターの出力(レーザーターゲット)信号
図3は、修正前のコンピュータのアベレージソフトの測定変位出力(長時間測定)、図4は修正後のアベレージソフト出力(短時間測定)である。些細なミスにより、信号処理ソフトにおいて、アベレージ処理は適正に行われていなかったのである。システムのチェックを行えば、簡単に見つかるはずのソフトのバグであった。
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図3:改良前のレーザー測定システムの位置信号(長時間)
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図4:改良後のレーザー測定システムの位置信号(短時間)。なお、改良後の測定は空調がほとんど効かない空間で行ったので、長時間測定結果(縦方向)には、大きな日周変化が、精度よく観測された。
デジタル化され、信号処理された結果だけを見ていては、大きな事実を見過ごす事もありえよう。信号処理過程では、生信号から多くの部分を切り取ってしまうのが普通である。本来、そうした処理は物理的な裏付けの元に行われるべき作業である。裾に小さな山があれば、それをならした結果だけで良いのかを判断する知識が必要であろう。
昔、回折写真の斑点の計数を、何もバックグラウンドを持たないアルバイトの女性にお願いしたと聞く。加速器のビーム処理は、そうした作業とは異なるとの認識が必要であろう。