: 3.6 加速電流と微弱電流モニターについて
: 3. Run 7へのコメント
: 3.4 ビームプロファイルについて
目次
索引
3.5 MEBTでのミスマッチの修正
5月23日のスタディにおいては、次のような特徴的な事が起こっていた。
- ビームセンターの蛇行が大きく、x方向はMEBTから大きな蛇行が生じていた。
- SDTL以降のプロファイル測定結果には、裾にロウブ(盛り上がり)が観測された。
- SDTLのLLRFの落ち方と横のチューニングに関係があるように見える。
- DTL-SDTLのマッチング部分のセンター軌道の振れの動きの一部に不自然なものがある。
リニアックのチューニングは縦と横方向の運動に対して行われる。縦に関しては、パラメータの値は既に決まっているので、デザイン値に近づける過程がチューニングである。横に関しては、収束の強さとマッチングという二つの大きなノブに分けられる。J-PARCリニアックの当初のデザインでは、両方のノブが自在に使える仕様になっていたが、ある時期に、収束力の可変範囲に関しては、自己規制するという選択をしている。
横マッチングは、段階的に低エネルギー側から行われる。マッチしていないビームを使って、後続部分のマッチングはやりにくいからである。5月23日配信メイル(第2.2節)によれば、今回のスタディでは、MEBTにおいて横方向のミスマッチが起きている事に気付かずに、叉、チェックする事もなく、後続のマッチング作業を延々と日数をかけて行っていた事になる。
スタディ過程では、横方向ミスマッチにより、SDTL7では放電が頻繁に生じていた。マッチングの修正により、運転時間中の放電回数がどのように減っているかを紹介する。
図 3.1:
MEBTミスマッチを修正した日(22〜23日)前後の高周波系の警報回数。SDTL-7(赤)と全RF系(青)の日毎の統計を示した。
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SDTLの入射付近のビームプロファイルは、MEBTミスマッチの修正前後で次のように変化している。
図 3.2:
ミスマッチ修正前後のSDTL入り口のプロファイル。縦軸は裾が見やすいようにログになっている。
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図3.1によれば、ミスマッチ修正前の22日には、SDTL-7には40回以上の警報があったのに、修正後の24日にはゼロになった。図3.2を見れば、ミスマッチ改善後のプロファイルの幅とすそ野の改善は顕著である。
5月23日付配信メイル(第2.2節)の中に、見過ごせない情報が含まれている。
- CGはMEBTのエミッタンスモニターでビームエミッタンスを調べた結果、KEKでの測定結果と大きく異なっていることに気づき、パラメーター(どこかは不明)をいじりKEKでの測定結果に近づけたらしい。
- 現在のリニアックのセッティングはDTLへの入射ビームはKEKで測定したエミッタンスを持つという前提で全てのパラメーターを決めていたらしい。
ところがエミッタンスの確認測定は今までしていなかった、ということ。
この情報が事実とすれば、次のように事実経過が推定される。
- ほとんど別とも云える加速器の数年前のビーム測定データのエミッタンスと同じであると信じて、その後の全ての測定の基礎となるMEBTのエミッタンス測定は省略して、ビームスタディを続けていた。
- スタディ開始後半年を経て、縦のチューニングが修了したので、ビーム強度を増やして、横のチューニングを始めて、それが終了したと思われたので、エミッタンス測定を行った。
- エミッタンス測定により、入射エミッタンスパラメータの違いが判明して、低エネルギー領域で大きなミスマッチを生じている事に気付き、それを修正した。
- 従って、これまでの縦のチューニングは、異常な横ミスマッチ状態で行っていた。
- この間、ビームセンターの振れと、ミスマッチによるビーム振幅の増大により、リニアック内の特定の空洞に頻繁な放電を誘起していた。
こうした事実経過は、複数の誤まりの結果と見られるので、反省材料として、指摘しよう。
- 諸外国には見られないエミッタンスモニターを、MEBTに加えたのは、三つの目的があった。
- イオン源の変動をラン毎に確認する事。
- MEBT-DTLの間のマッチングの基礎とする事。
- 入り口のエミッタンスの値を把握して、後続のリニアックでの測定等との比較検討の基礎とする事。
こうした当初の目的を無視した結果が、今回のスタディ時間と労力のむだ遣いにつながった。
- 縦と横の運動のカップリングは弱いとは云え、電流が強くなれば、無視出来ないものがある。従って、縦ー横ー縦ー横のチューニングを繰り返して、目標に達する事が良い方法である。
- 生の測定データには多くの情報が含まれるが、それを数値化した場合には、多くの貴重な情報が失われる。今回の場合、SDTLのプロファイル測定結果の図を一目見れば、どこかにミスマッチが生じている事は、推測される。更に、不注意なビームハンドリングによって空洞に放電が生じる事を、既にしばしば経験していたにもかかわらず、SDTLの局所的な空洞トリップ回数の変化と、ビームの横チューニングとの関係に注意を払う事もしなかったようだ。MEBTのエミッタンスを測ってから、そのミスマッチに初めて気付いたという経緯から、スタディの時に、単に抽出された数値のみを参考にしているスタディの基本的な姿勢が問われる事になる。そうした姿勢は、チューニング後には条件付きで許容されるが、加速器の最初のスタディにおいては、不充分と云わざるを得ない。仮に、プロファイルの図を検討したにもかかわらず、横のミスマッチの存在の可能性を疑わなかったとすれば、そうした状況はコメントの域外の事象である。
J-PARCリニアックは、相当に質がよく作られているので、普通にスタディを行えば、それなりの結果は得られるはずである。今回の場合も、最初にMEBTのエミッタンス測定を行っていれば、横マッチング達成の為に、日数を無駄に費やせずに、結果が得られたと思われる。
失敗は何事にもあり得る事である。その場合の心がけ次第により、それらは貴重な経験を積み重ねる機会ともなる。心がけを新たにして、最終目標まで早く到達してほしい。
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