L3BTデザイン変更の経緯 2002年


○ J-PARC L3BT(リニアックから次のリングへのビーム輸送ライン)のデザインは2002年から2003年にかけて、全面的に刷新された。その経緯をここで記す。
Technical Design Report (TDR)用に公表された当初のビームラインを下図に示す。

● 推測であるが、空間電荷効果を最初は考慮に入れないというデザインの手法は、リングデザイン用のソフトを採用している故と思われる。リングの場合には、チューンシフトは常に大問題になるが、その大きさは、リニアックに較べておよそ一桁は小さい。従って、小さな摂動の形で空間電荷効果を考慮しても、ほとんど充分なのである。多重回転とあいまって、問題が生じるという事なのであろう。

リニアックでは、ビームライン通過は一回限りであり、大きな空間電荷効果により、軌道のパラメータは大きく変わってしまう。リングになじみの深い方々には、こうした事情を実感として理解する事は難しいようだ。実例を挙げよう。L3BTのデザインの改訂の終了まじかに、リングデザインを主導的にしていた方から、L3BTのデザインをして見たので、ビームシミュレーションを行って、他のデザインと比較をしてほしいという提案があった。結果を見ると、リングデザイナーのL3BTデザインのエミッタンス増加が一番大きい結果がでた。収束力が弱過ぎて、そのような結果になったのであるが、リングデザインの常識からすれば、強い収束力を持つラインだったかもしれない。

● 2001年の某月のある日、加速器リーダーが訪ねて来て、新たなL3BTデザインを引き受けろという。当時は、KEKに建設中の60MeV陽子リニアックのビーム試験が目前に迫った段階であった。リニアックの基本デザインは終了していたが、私の中では、それまでに自分で作ったソフトを他の方々の為に使い易くする事等を含めて、かなりの労力を要する仕事が残っていた。更に、L3BTデザインは原研の管轄となっていたので、そのような仕事を引き受けても、新たな別の問題を生じる事が懸念された。おまけに偏向磁石を含むビームラインのデザインなどは、それまでに行った経験はない。しぶっていると、どうしてもお願いしたいと何度もいう。L3BTデザインの改訂は、リーダーから懇願された故に、やむなく全体の事を考えて引き受けたのである。この項の内容に事実誤認等があれば、御連絡を。

● 引き受けた仕事の内容についてある程度考えた後、ある若手研究者にL3BTのデザインをやってみないかと提案した。これは、一つのまとまった大きい仕事であり、担当者の考えが反映出来る仕事でもあると考えた。そうした意味で、若手研究者にとってもやりがいがある仕事ではないかと考えたのである。彼は次のように言い、即座に断った。

断る理由に一理はある。最初の原研デザインは、そうしたソフトが見当たらず、既存の(リングデザイン用)ソフトで間に合わせたから、あのような形になったのである。ソフトの輸入に熱心な方はこのように考えるのであろう。ソフトの移植も一つの立派な仕事ではある。この項の内容に事実誤認等があれば、御連絡を。

● その後、およそ3ヶ月かかって、以下の二つのデザイン用ソフトを開発した。

強い空間電荷効果を含むL3BTシミュレーションを行って、良い結果が生まれる時のビームラインパラメータを、何らかの形の指標として表す事が、最初のプログラムの目標となった。その過程で、一体どんなラティスが良いのかを色々とテストした。更に、エネルギーコリメータシステムは、本当に必要なのかという検討も同時に進めた。3Dシミュレーションの中に、ビームコリメータを設置して、ビームの落ち方を検討した。

● ほぼ半年後に次の特徴を持つビームラインデザインを関係者に提案した(L3BTダイナミクス検討会議事録)。

最終結果として得られた基本アークを下図に示す。下図は上図の最初のアークに相当する部分であり、みにくいが上図と縦横のスケールを同じにした(ベータ)。詳細は(Design and Construction)の「L3BTノート」の項目を参照。

L3BTデザインの改訂を引き受けて、注意した事・感じた事を記しておこう。