50 mAイオン源は早期に実現するか
- 2007年6月現在、イオン源のビームは20〜30mA程度が実績である。これは決して楽々と安定に達成されている数字ではなく、関係者の相当の努力の結果と思われる。
- 今後数年間のうちにビーム強度が50 mA以上となる確率はどの程度あるのか。この答は非常に難しい問題を含む。一言で云えば、このままでは難しいと思われる。
- そもそも50mAという値は、1 MWを計算する為のごろ合わせのようにして作られた数字であり、そこには科学技術的根拠は見出せない。
- 10数年前のKEK時代より、イオン源関係者が、イオン源の性能に関して、必要以上の秘密主義をとり、その将来の実現性能に関しては、楽観的な見解を表明してきた事は、衆知の事実と云えよう。
従って、担当部門に対する信頼感が喪失している事が、この問題解決を楽観視させない理由の一つとなる。
- セシウムを使ってビームを増やす方法はあるが、この方法は禁じ手とみなされていた。何故か。次のRFQ加速の劣化を招くと思われていたからである。従って、現在のようにRFQが放電しやすい状態では、真面目な検討に値するかどうかは疑わしい。イオン源と直結するRFQ加速は、一体として考えるべきであろう。なお、この件に関しては、大分昔に、自分達で真面目に取り組み結果をだすべき価値がある重要な問題であるとの提案(2001年11月第2回大強度陽子加速器計画技術報告会 Slide No.30)をしたが、当時は黙殺であった。
- ビーム電流は定格に達しなくても、長期的寛容の精神を以て、温かく見守ってほしいという事ならば、事前に関係方面にそのような説明をするべきであろう。
- イオン源から定格ビームが安定に出ない場合には、リニアックエネルギー増強は、宝の持ち腐れと化す。それは、RCSビーム電流の増強がないままに、空間電荷効果だけを緩和するという結末になるだろう。それでも良いという考えならば、大きな期待を寄せるユーザーの方々に、基本戦略との間に起り得る矛盾を、まず説明しておくべきであろう。
- イオン源がかかえる問題点については、本ホームページ第3章に述べた。
(注:入射エネルギーアップだけで、少々のRCSビーム電流増加が期待出来る事は、KEK PSで経験している。しかし、本来の目的は、もっと上にある。PSブースターの加速電流が大きく伸びたのは、1985年のエネルギー増強を経て、様々な改良を経てからであったと記憶する。)
結論
イオン源の能力の増強が不充分な場合には、リニアック延長の効果は限定的になる可能性が高い。その場合には、単なる空間電荷効果の緩和だけとなる可能性が高く、基本戦略との違いを事前に説明しておくべきであろう。この問題に課題が残る状態で、見切り発車が許されるかどうか。筆者の感覚では難しい。 セシウムを使う方法は、きちんと対処出来ない場合には、リニアック加速ビーム強度減少という逆方向への可能性が存在する事を、衆知しておくべきである。そして、それは、RFQの交換程の作業を必要とする非可逆過程である事も。