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: 参考文献 : 5. 再び前段部分の問題点について : 5.2 RFQ出力エネルギー不足の問題とプリチョッパー電源   目次   索引

5.3 期待される性能を満たしていないイオン源問題とその背景

ATAC暫定レポートが指摘しているように(第3章 第6回ATACコメントについて)、イオン源は、解決すべき難しい問題を抱えている。

1987年にKEKで1GeV陽子リニアックワーキンググループが発足した時、負水素イオン源の課題とその技術的問題点と今後の取り組み等の議論があった。その後、開発の進展はあったようだが、今もなお同じ話題が同じ言葉で語られ続けている。前任者の時代から、外国研究所とのコラボレーションの多大な成果が常に発表されていた。そのような成果があったならば、現在は何の問題もないはずである。コラボレーションが、単に外国製のフィラメントを直輸入する事になっていたのではないか。

参考資料:1993年JHP 1 GeV LINAC Slide No.39
参考資料:1999年9月第1回統合計画検討会 Slides No.20-23

筆者は、昔、ビーム増強が期待出来るCsイオン源が、加速空洞に対してどのような悪い影響を与えるかを、(文献と外部情報だけに頼らず)自分達で精査し、その対策を考えるのも、イオン源ビーム強度増強のひとつの解決策であると提案した。ところが、最近になってあきらかにされた現在のJ-PARC RFQ空洞の耐放電(耐電圧)特性の悪さを考慮すれば、良好な耐放電特性という当時の前提そのものが間違っていたと云わざるを得ない。そのような状況下では、CsイオンのRFQ空洞に対する影響を正しく評価する事さえ出来ないであろう。

参考資料:2001年11月第2回大強度陽子加速器計画技術報告会 Slide No.30

複合的な加速器のビーム試験では、縦接続される種類の違う加速機器のそれぞれの特性を調べ、後続の加速機器へ最善のビームが供給されるような設定を見つける事が一つの目標である。
かつて、MEBTのビームテストをKEKで行った事があるが、その場合、MEBTを通過するビームを調べつつ、MEBTへ入射するビームの最適点を見つける事は、必須である。この方法は、あまりにも当たり前の事で、疑う余地がない。ところが、当時のRFQ 担当者は、RFQ空洞の電圧を変化させる事を拒否したのである。理由は何も云わない。唯単に拒否であった。その場合には、ひとつの固定化された入射ビームに対してMEBTの設定を最適化する事しか出来ないから、中途半端なスタディ結果となる。
現在のJ-PARC RFQには二つの大きな欠陥が存在する(この他にも縦ハロー成分が多いなどの問題がある)。

当時(2002年)は、何故RFQ加速電圧の数パーセントの変更を担当者が拒否するのか理解不能であったが、このような二つの欠陥の露呈を危惧していたと推測すれば、納得がいく。

加速器はビームという実証手段により、出来栄えが検証されてしまう厳しい仕事である。如何に隠蔽をしても、実際にビームを連続して通せば、その性能は明らかになる。上に述べた二つの欠陥は、結果を公表する最近のビームスタディの結果、わかった事である。

放電に対する安易な姿勢と関連して、最近行われたスタディの中で、SDTL空洞の放電を誘発する電場設定を行ってまで、最終加速エネルギーを180 MeV 以上にしたというスタディの姿勢には、反省を求めるべきであろう(第2章 6.2 エネルギー測定の評価第2章 6.3 SDTL加速電場の推定参照)。ビームを空洞壁にあてる事は、表面を損傷し、空洞内の放電を更に誘起して、加速空洞表面に致命的な損傷を与える可能性があるので、特に注意を払うべき事項である。RFQ空洞がこれだけ放電しているという事実が、何らかの反省あるいは注意の材料になっていないのである。それ故に、これと同様な乱暴な空洞エージング方法あるいはビームスタディ方針によって、RFQ空洞自体の耐放電特性が劣化した可能性が指摘できる。

こうしたビームスタディが続く場合には、機器担当者は、自分の機器は自分で注意するという意識が一層必要だろう。

さて、20年近くイオン源ビーム強度増強の努力を重ねても、目標が達成されない場合には、どうすべきであろうか。外に向って、達成されたとか達成されつつあるとの報告を続けて来た担当者だけで内輪の議論をこの先何回重ねても、今後十年にわたって同じ事が繰り返されるのではないか。

J-PARC加速器の建設にあたり、定期的にかつ頻繁に、開発進行状況をチェックする役目を担う何種類かの委員会が開催されてきた。建設の修了段階近くになって、基本的なリング関係機器の抜本的改善の必要性が、別に新たに作られた委員会により指摘されている(本ホームページの第 LAST-2章 J-PARCが抱える諸問題、2006年6月に提出された技術問題の答申)。ところが、その時期までに頻繁に開催された各種委員会によって、それまでの開発過程に対しては、ある程度のお墨付きが出されているのである。こうした事実経過は何を意味するかを充分検討すれば、今後どのような方針の転換が必要であるかの指針となるであろう。


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