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4.3 永久四極磁石による収束法

加速器は、ビームのエネルギーを高める為に、加速空洞を使う。一方では、収束磁石を使って、ビームを安定軌道の廻りに保持させて、加速途中でビームが散逸しないようにする。収束磁石としては、四極磁石という磁石のタイプが使用される。この磁石が作る磁場の強さを変える事により安定軌道の性質を変化させて、ビームにとって最適パラメータを保持するようにチューニングする方法が、一般には便利と考えられている。この場合は、収束磁石の強さを変化できるように、電磁石を使って四極磁石を作る。一方で、安定軌道の性質を一定にしてしまう考え方もある。この場合は、永久磁石を使って四極磁石を構成すれば、電気代が必要なくなるので、運転経費は非常に安くなるという長所をもたらす。しかし、安定軌道を決める収束パラメータの変更が出来ないので、ある場合には非常に不利な条件となる。

一般的に言えば、収束の条件を変えなければいけないというのは、エネルギーが大きく変わるか、電流の強さが大きく変化する場合である。同じ種類の電荷同士では反発力(クーロンの法則、空間電荷効果)が働くので、電流が強くなると空間電荷効果により、ビームはバラバラに散逸してしまう。従って、ビーム電流が変化して強くなる場合には、空間電荷効果の分だけ、収束力を増やさなければいけない(これは数多くある収束法の一つであるが)。また、空間電荷効果自体も、エネルギーが低くなると増大する性質がある。永久磁石を使った四極磁石でも収束力の変化するような構造は可能であるが、筆者は、遊びに使うなら良いが、安定なビームを長年にわたって供給するという使命を持つ加速器に応用するのは、無理が積もると考えていた。

大型ハドロン計画のピーク電流は20mAである。この値は、物理実験に必要な平均ビームの強さとリニアックの構成から決まるものである。一般に、物理実験関係者は、強ければ強いほど実験時間を短く出来るので、強いビームを要求する。研究エゴイストが多い高エネルギー物理実験研究者には、特にこの傾向が強く、それに強烈な歯止めをかける事を意識的にしなければ、物理部門から出てくる要求ビーム強度は止めどもなく強くなっていくのが通例である。最適な加速器の形態は、ビーム仕様によって変わるという考え方を私はしていた。当時、20 mA までならば、永久磁石で収束磁石を作り、収束力を一定にしても、なんとかマシンのチューニングと運転が可能であると判断していた。そこで、私は、山崎氏に安易にビーム強度仕様を増やさないという事ならば、永久磁石を使う事も可能であり、その場合には、低エネルギー領域の周波数として400 MHz台の高い周波数を選ぶ事が可能であると意見を述べた。(ある位相進みを得る為に)必要な磁場勾配(B' )はリニアック周波数(f)の二乗に比例する。


\begin{displaymath}B' \propto \frac{f^2}{\beta} \end{displaymath}

ここで、$\beta = v/c$は粒子のスピード(v)の光速(c)に対する割り合いを示す。必要な磁場勾配はビーム速度に半比例する事になる。ここから、DTL入射エネルギーを上げたいという要求が生まれる。

ドリフトチューブリニアックは、ドリフトチューブの中に四極収束磁石を組み込む構造となっている。ドリフトチューブ自体はほぼ円筒形であり、その直径は、周波数にほぼ反比例する。
KEK PSリニアックの周波数はおよそ200 MHzである。周波数を2倍にして400 MHzにすれば、必要な磁場強度は4倍になる。電磁石の採用は、磁場が飽和する問題、発熱が大きくなる事、磁石自体をかつての半分の大きさに作らなければいけない事などが相乗して、ほとんど不可能となる。あるいは、収束方式のグレードを下げるとかの苦渋の選択をして、なんとか可能となるかどうかという事になる。
諸事情を勘案した結果、永久磁石により収束磁石を作る方式を選択した。その結果、ドリフトチューブの中に入る形状の永久四極磁石の製作が、大型ハドロンリニアック建設のメインテーマの一つとなった。実用に耐えるこの種の磁石はまだ世界に存在していなかったという事もあり、これは大仕事となる。

 相当の努力をしたにもかかわらず、結果的には、出来上った永久磁石の仕様は、私の要求仕様を満たさなかったと判断せざるを得ない。私にとって最大の関心事は、デザイン通りの磁場勾配を長期間にわたって安定に確保出来るかという性能である。開発の最終段階において、製作を請け負っていた会社は、最大励磁から磁場強度を下げる事は難しいと言い始めた。それまでのテストは何であったのか。それまでの開発の経緯と照合してもどうしても腑に落ちない。
 この後、DTL用の四極電磁石の開発が課題になった時、私は同系の会社に開発研究を依頼した。この時は、先方が提案するアイデアを尊重するという進め方をしたが、結果は、本稿の日誌部分(後述)に記した通りであった。どうも仕事の相性があるような感じを受けたものである。


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