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5.1.4 チョッパー用電源

大きな組織になると空洞は空洞部門で製作し、高周波電源は電源部門の担当となる事が普通である。チョッパーの場合も、仕事の流れから言って電源担当者が製作を考える事になった。ところが、電源部門のボスS氏はもともと高周波チョッパーに賛成しない方で、私からみて熱意ある対応をしているようには見えない。その上、全体の重要な会議では、「そのような電源の製作は不可能である」「NEC からは引き受けないとの返事が来た」と報告したのだ。当時、既にPSリニアックの責任者になっていた高崎氏も「そんなもの作ってくれるわけがない」と簡単に言う。私は、そうした会議では、高周波チョッパーの利点を説明して粘った。すると最後に、会議の議長であった木原加速器施設長は次のように言った。「そんなに言うのであれば、加藤君、君が自分で作るしかないだろう」。こういうのを誘い水というのであろうか。私は答えた。「わかりました。それでは私が担当させてもらいます。皆さま方、それでいいんですね」。私は、私の解釈ではやる気のない担当者達を眺め回して念を押した。自分の担当分野を囲い込む事に情熱を持ち、外部からの口出しを極度に恐れていたS氏は、これが苦虫かというような顔をしていた。会議終了後、高崎氏は、「加藤君、NECはやってくれないよ」と言った。

 NECの担当に電話をした。彼は、最初、忙しいという事で会う事を渋っていた。私は次のように電話口で言った。「この仕事は、計画全体からみて非常に重要です。お忙しいようでしたら、こちらからどこへでも出向きましょう。それでも会えないというのであれば、私は直接会社に出かけてしかるべき方にお願いするつもりです」。

数日後にKEKに担当の二人が来研した。KEKの電源担当からは、若手の信頼できる山口君に出てもらった。私はまずNECの事情を聞く事から始めた。曰く

「TV放送のデジタル化が決まっており、そちらの方の電源作りで手いっぱいである」
「周波数が既存のものと違うので、使う石(トランジスター)選定からの検討が必要である。既存の流用というわけにはいかない」
「これまで***の価格で納入している。あまり差を付ける事は難しい」

一通り事情を聞いたあとで、こちらの説明を行った。既に簡単な仕様は届けてあったが、加えて、この仕事の重要性、面白い点、外国の研究所との相違点や競争など、2時間近く話を続けた。力点は、全体の中でのこの仕事の占める位置、性能に対する要求、外国との比較といった所であった。面白い物を作るのだと力説した。他の会社の話も話題になったが、私は、PS に納めてもらった優秀なNEC電源の件と、他の会社で作ってもらった電源の性能の悪さとを説明し、相手にならずと答えた。当初、困惑気味であった彼らは、最後には、「とりあえず検討はしてみましょう。むずかしいとは思いますが」と述べて帰った。疲れた一日であった。

私は、次の作戦を続けた。これまでにチョッパー関連で書いた内部資料をメイルに添付して、何通も送ったのである。もし駄目だという返事がくれば、今度はNECの本社の担当の所まで押しかけるつもりであった。そうした意識は、最初の打ち合わせの時にもにじませていたつもりだ。私の大学の同級生の何人かが既にNECの他のセクションの部長クラスになっていた。大学時代にあまり講義を取らなかった私は、かろうじて彼らの顔を覚えている程度であったが、必要ならば、お願いに行こうと考えて、リストを作っていた。

一週間後位に電話が来て、前向きに検討したいとの返事をもらった。この時の嬉しかった事は今でも忘れない。同時に、このような破天荒の電源を引き受けてくれるというNECは面白い会社だと思った。次に買うパソコンはNEC で決まりだ。後年、自宅用はNECにした。まだ、経費の交渉が残っていた。そして、厳しい仕様(立ち上がりスピード)を如何に実現するかという難問もあった。その後、いろいろな経緯はあるが、NECに対する私の評価は変わらない。この電源が、こんな値段で出来るというのが、驚きであった。感謝の一語に尽きる。

途中、多少まいった事もあった。御殿場の工場まで立ち合いに行った時の事だ。最終試験の担当者に、こうした仕事が初めての方を配属しているのである。お陰で、測定等は、こちらの技術供与のような形になってしまった。おそらく、通常の組立と試験であれば、マニュアル通りで良いのであろう。しかし、我々の場合には、パルスの特殊電源なので、これまで使っていた普通の測定法が通用しないらしいのである。大学院の修士課程ならば、こうした測定などは常識的なものと思ったが、企業というのは、そこらへんは徹底しているようだ。しかしながら、一旦測定法を理解すると彼は持ち前の熱心さもあって、我々の期待に充分答えてくれる仕事をした。立ち合いの結果、電源全体の立ち上がり時間が少し悪い(20ナノ)ので、担当者と議論した。私は、いくつかの問題点を挙げて、そのような試験をした結果がこうであるのかどうかと質問した。これまでのところ、そうした増幅段毎の最適化はしていないとの事であった。いくつかのポイントを確認して、立ち合いは終わったが、最終納入時には、立ち上がりは15ナノ秒になっていた。やはり、技術集団のトップクラスには、どこをどうしたら良いのかわかる人が居るという印象を受けた。

さて、経費はあまっていたわけではないが、立ち上がりをよくする為に、計算上で必要な電力(チョップするビームを、チョップしないビームから分離する為に必要な電力)の2倍の出力がとれる電力増幅器を製作した。今後、チョッパーの能力を高める必要があれば、独立な電源2台を使い、且つ、その最大出力を大きくする事により、大きな性能の向上が期待できる。

S. Fu and T. Kato, "RF-chopper for the JHF proton linac," Nuclear Instruments and Methods A 440 (2000) 296.
S. Fu and T. Kato, "Design study on a medium-enetgy beam transport line for the JHF proton linac," Nuclear Instruments and Methods A 457 (2001) 423.


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