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6.7.1 PR銅電鋳法

加速空洞の電気的な出来具合の良さを表す数値の一つがQ値と呼ばれる指標である。電気抵抗が小さくなると、Q値は大きくなる。純銅で空洞を作ると大体数万のオーダーの値となる。直流電気抵抗がゼロとなる超伝導体を使って加速空洞を作るとQ値は、銅で作る場合(常伝導空洞と呼ぶ)の10万倍程度となる。出来具合の目安として、理論的に計算されるQ値と較べる事がよく行われる。KEK PSで作った陽子リニアック空洞は、およそ80%程度である。これは、電鋳の時に使う電解液の中の不純物の効果と考えられていた。Q値がよくなれば(電気抵抗が小さいので)、必要な空洞の励振電力を小さくできる。従って、理論値の100%にせまる加速空洞を作る事は、リニアック技術者のひとつの夢であった。

周波数を324MHzに下げて、新しいリニアックデザインの骨格が出来始めた頃、三菱重工の担当より、新たに開発中のPR法(periodic reverse)硫酸銅銅メッキを加速空洞に応用出来ないかという話を聞いた。これは、光沢を出すための光沢剤などの不純物を一切使わないので、基本的に電気抵抗が小さいとの説明であった。概要を聞いて、即座に、加速空洞に応用する為の試験を開始する事を決めた。加速空洞に応用する為には、更にいくつかの重要な性質が必要である。放電に対して強い事、真空特性が良い事、ある程度の固さがある事、メッキの表面がはがれない事などである。

3mに及ぶ長い単純な円筒タンクの内部表面をPR法で作り、高周波特性を測定すると、驚くべき結果が出た。計算のQ値よりも高い値が得られたのである。計算にどのような銅の電気伝導率を使うかという事が問題になるほどの出来栄えなのである。その他の特性も全て合格である。特筆すべきは、その優れた耐放電特性であり、初期放電開始電圧が非常に高いものが得られた。その当時、KEKの敷地の制約から、常識的な眼からは相当に高目の加速電場を設定するデザインとなっていたので、これは非常にあり難い測定結果となった。

参考資料:PR銅電鋳の特長

PR銅電鋳の加速空洞への応用は、開発者の三菱重工名古屋の田尻氏、積極的に推進してくれた壁谷氏、それにPR電鋳設備を整え、良い仕事をしてくれた旭金属の貢献が大であり、感謝にたえない。

参考文献:
K. Tajiri et al., "Coil, New Application of Electroforming", Joint Hawaii Forum on Advanced Surface Technology in Japan and USA(1998).
H. Ino et al., "Advanced copper lining for accelerator components," Linac conference (2000) , 第25回リニアック技術研究会(2000)
K. Tajiri et al., "Development of an electroformed copper lining for accelerator components," Electrochimica Acta 47 (2001) 143 - 148.


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