スタディビームによるバンチャーの損傷事故
○ 2007年5月7日配信:Subject: バンチャー1異常
空洞各位
本日の執行委員会でバンチャー1が前回のRUNの最後にパワーが入力できなくなった、という連絡がありました。
最後にMEBT1のBPMをBeam Based Calibration (BBC)しようとしてビームを振った際にバンチャー中で少し損失を起こしてそれ以後、パワー投入ができなくなった、ということらしい。エージングをやり直せば入る感じであったと報告されました。
私はその時いなかったのと、今日まで知りませんでした。
その場に誰がいたのか分かりませんが、バンチャーも空洞グループが面倒をみる必要がありますので、空洞の異常を知った場合は即座にグループ全員に知らせて下さい。お願いします。
空洞グループの責任者が知らない異常な事故が起きていた。これは、バンチャーの異常ではなく、ビームスタディによって引き起こされたバンチャー損傷事故である。しかも、簡単に予想される事故である。一言を持って評価すれば、乱暴なスタディの結果という事である。
- ビームロスによる加速空洞等の損傷:
スタディにより、ビームを加速途中でロスさせる事は、壁が痛む事、及び放射化が起る事の二つの理由により、できる限り回避すべきである。壁の損傷はビームのエネルギーと強度に依存する。
- 3 MeV ビームにより、ワイアスキャナーのワイアはすぐに焼き切れる事を想起せよ。
- 電場との兼ね合いで、ビームロスさせてはいけない場所がある。一般に加速空洞内面は、そうした場所である。
- KEK PSのDTLは入射エネルギーが750keVであった。入射部分のドリフトチューブ表面は、以下のように無残な姿となる。
- バンチャー空洞の1/4断面図は次のようなものである。ここでビーム損失が起ると、中心部の電場が一番高い加速ギャップ(ノウズコーンと呼ばれる)にあたる可能性があり、表面の損傷を起して放電が起りやすくなるから、避けるべきなのである。この部分は、曲面であるが、表面粗度に配慮して製作している。
- 昔、こんな乱暴な人がいた。運転が終わり、リニアックをシャットダウンする時に、A氏は、大本のブレーカーを一気にオフにした。オフになる事は確かである。
- 周囲から見ると、自分の誤操作により、機器が壊れているにもかかわらず、B氏は次のように報告する。「**が壊れました」。報告内容自体は間違いではない。彼は、自分で壊している事に気付かないのであろうか。
- 今回のバンチャーの件は「バンチャー異常」ではない。「異常なスタディ方法によるバンチャーの損傷である」。
- スタディ担当者及びスタディ用ソフトウェア開発者へ:
陽子ビームは凶器であり、加速管表面はビーム衝突により致命的な打撃を受けるものである事を考慮して、仕事を進めるように希望する。加速器運転に使うソフトは、関連機器へのそのような配慮を含むべきである。機器への異常指令を回避し、ビームの暴走を許さないようなサブルーティンを含むソフトを書くソフトウェア技術者が信頼されるであろう。
- 2月のスタディでは、加速電場の設定異常により、SDTLの異常放電を引き起こしている。そして、今回はバンチャーの損傷による異常放電事故である。RFQ空洞が放電多発で定格を満たせない事も、同根ではないか。「壊した」ものを「壊れた」と云う事がないような、注意深いスタディが望まれる。
070509 記