J-PARCリニアックのエミッタンス増加測定結果について


○ 2008年2月末に行われたATAC-8において、J-PARC陽子リニアックのエミッタンス増加測定結果が報告されているので、とりあげる。

報告されている出力ビームのエミッタンス測定値を示す。

上の表の中で着目する結果は以下の値。

規格化横RMSエミッタンス(H/V)     0.27/0.33 : pi-mm.mrad 5 mA ビーム
規格化横RMSエミッタンス(H/V)     0.35/0.41 : pi-mm.mrad 25 mA ビーム
99.5%規格化横RMSエミッタンス(H/V)  7/10 : pi-mm.mrad 5mA と25mA ビーム

RFQ出力横RMSエミッタンスは 0.2 以下と推定される。


次の表は、リニアックの各エネルギーステージにおける横エミッタンス測定値である。

これを、それぞれの加速段階において観測されたエミッタンス増加率になおしたものが、下図である。

上図で、「R13H」は 「RUN13のHorizontal(水平方向)」を意味します。RFQの出口のエミッタンス(過去データ)を基準としています。

報告された測定結果より、

大きなエミッタンス増加の由縁と責任の所在

J-PARC陽子リニアックで報告されている現在の大きなエミッタンス増加は、人為的なものである。2003年に、その当時の加速器リーダーはある決断をした。即ち、

「DTLの収束用四極電磁石のパルス励磁方式をやめて、直流励磁方式を採用したい。直流励磁にすれば四極電磁石の熱負荷が問題となるが、デザインで設定されているDTL収束力を弱めれば可能である。そのようにしても、横方向の収束力は充分であり加速は大丈夫そうである。」

という案を採択した。その当時の加速器責任者は、リニアックの空間電荷効果になじみがない為であろうか、その案に対してきちんとした検討を加えるという案を採用しなかった。弱い収束案の採用以後、チューニングをサーベイする為に備わっていたリニアックの様々な可変部分は、サーベイが出来にくいように改悪されていく。その後、J-PARCリニアックは、四極電磁石励磁方式であるにもかかわらず、横方向の収束力のチューニングを行わないという、奇観を呈するに至っている。リングのコミッショニングに関わりのある人にとって、チューンサーベイを行わない加速器は考えられるであろうか。これは、天下の奇観といえよう。


以上の意味で、現在測定されているエミッタンス増加は、人為的なものであり、現状の弱い収束力設定を、推進した方々の責任は重大である。
現状の大きなエミッタンス増加の由縁が、充分な公開の議論の末の選択であるならば、人は間違える事がありうるという意味で、責任を問われる事はないでしょう。


参考文献:
以下の文献は当時の時間的な制約の為に、要点だけを述べている簡単なものである。文中、ビーム電流の単位は mA の誤記である。