next up previous contents index
: 2.1.4 チョッパーの動作 : 2.1 ビームスタディ結果:2007年前半のスタディからの改善 : 2.1.2 加速電場ー2   目次   索引

2.1.3 2台のSDTLへの給電法

J-PARCリニアックでは、2台のSDTL空洞に1台のクライストロンから給電している。この2台の空洞は同じ形状ではなく、ビームのエネルギー(速度)が違っているので、最善の加速効率を得る為に空洞の形状もわずかに変化する。クライストロンからの出力電力は、パワー分配器を使って二等分されて夫々の空洞に給電されるが、ここまでのビームスタディ結果によれば、2台の空洞がビームを加速する時の振るまいが違い過ぎる(ビーム負荷がアンバランス)ように見えるというのである。但し、観測しているのは、タンクの波形だけと推定される。この現象が気になるというので、以下のビームスタディが行われた。

$\bullet$ 9月17日配信:Subject: [jk-acc:03543] Study Summary
BEAM STUDY SUMMARY(Sep. 17, 2007 10:44 -20:40)

-- Beam conditions --
Energy: 50-55 MeV, Peak current: 5 mA, Pulse width: 0.05 msec, Repetition: 2.5 Hz
Beam dump: 0-deg dump
Buncher ON, Chopper OFF
---------------

・SDTL1 2空洞間のチューニングに関するスタディー
2空洞に供給するRF電力の分配比を変えて位相スキャンを行い、ビームローディングのバランスを測定した。
2空洞に供給するRF電力の位相差を変えて位相スキャンを行い、ビームローディングのバランスを測定した。

$\bullet$ 9月20日配信:Subject: [jk-linac:01932] 第85回 J-PARC Linac RF 打合せメモ ('07.9.20)
第 85 回 J-PARC Linac RF 打合せメモ

日 時:2007.9.20 (木) 10:35 〜 11:50
ーーー略ーーー
・立体回路の振幅,位相調整
 S1 の 2 空洞間のビームローディングが同じに見えるように立体回路の振幅調整を分配器で行なった (コミッショニング-G).結果は,3 パーセント の調整が必要とのことであったが,プェーズスキャンの元データーである位相検出器の誤差を考慮していない,D3 までの調整によって結果が変わる可能性がある等,十分な検討が’なされていないので,今回の測定結果を元に立体回路の調整を行なうことは見送ってもらうことにした.

さて、こうした配信資料から、このスタディ内容の評価をしてみよう。
SDTL空洞の加速のアンバランスについてスタディをしたのであるから、事前にある予測作業を行い、その予測を検証しようとしたのであろう。その結果が、加速器物理により合理的に説明できるものであれば、それは十分な説得力を持ち、スタディ結果を活かす方向のチューニング作業が行われるはずである。ところが、RF打ち合わせメモには気掛かりな文言がある。

プェーズスキャンの元データーである位相検出器の誤差を考慮していない,D3 までの調整によって結果が変わる可能性がある等,十分な検討が’なされていないので,今回の測定結果を元に立体回路の調整を行なうことは見送ってもらう

要するに、現象の解明が為されていないから周りの専門家の賛同が得られなかったという事なのであろう。ところで、ここで問題にされているビーム負荷現象は、そんなに難しい事なのであろうか。ビーム加速の一番基本的な現象がビーム負荷であろう。しかもここで問題にするのは、ビーム負荷に伴って派生する諸問題ではなく、ビーム負荷そのものである。そうした問題をスタディして、結果に合理的な説明が与えられないとはどうした事か。担当者は、加速に伴うフェイズダイアグラムを書いて検討していると推定する。それが十分正確に書けるほどの測定が出来ているからこそ、こうしたスタディを行ったとも推定される。ダイアグラムなくしてスタディをする事はほとんど考えられないので、どこか公開の場所にアップロードしてほしいものである。情報が多くなれば、予測と実測が何故食い違うのかが推定出来る可能性が生まれる。このような基本的な測定に関して、予測と実測が反対になるという事ならば、いささか事前の準備が不足しているのではないか。
仮に、正確なフェイズダイアグラムが書けない程度の測定範囲と精度であるとすれば、それはスタディ時間のむだ遣いと言えるだろう。

参考までに、1台のクライストロンの電力をほぼ等分に分割してSDTLタンクに給電する方式を採用した頃の記録を「SDTL空洞への給電法について」に紹介した。

10月の終わりに、旧いランのリニアック空洞波形が配信されたので、スタディグループがアンバランスと呼んでいる所の波形が推定された。ふと、1970年代の終わり頃、トリスタンが始ろうとした時に米国よりP. B. Wilson氏なるRFの大家がKEKに招かれ、空洞とビームとの関わりについて連続講義が行われた事を思い出した。講義録はKEKレポートで出版されているはずだから、本節で扱った類いのスタディをされる方は一読するとよいだろう。既に読んでいるとは思うが、念の為。

図 2.4: RUN-8 SDTL-1空洞波形:tank-A空洞電場、tank-B空洞電場、tank-A反射、tank-B反射、ビーム電流 26 mA
\includegraphics[width=10cm]{run8-S1-26mA.EPS}

図 2.5: RUN-8 SDTL-2空洞波形:tank-A空洞電場、tank-B空洞電場、tank-A反射、tank-B反射、ビーム電流 26 mA
\includegraphics[width=10cm]{run8-S2-26mA.EPS}

上の2図は、2007年6月のランー8の時のSDTL空洞の高周波波形である。最適にチューニングされているとは言い難い。これは変だというわけで、クライストロンからの電力の分割比等を変化させるスタディを行ったが、高周波グループ等の反対意見により、分割比等は何も変更しない事になったという。その状態で測定された2007年10月のランー10の時のSDTL空洞波形が下図である。

図 2.6: RUN-10 SDTL-1空洞波形:tank-A空洞電場、tank-B空洞電場、tank-A反射、tank-B反射、ビーム電流 5 mA
\includegraphics[width=10cm]{run10-S01.EPS}

図 2.7: RUN-10 SDTL-2空洞波形:tank-A空洞電場、tank-B空洞電場、tank-A反射、tank-B反射、ビーム電流 5 mA
\includegraphics[width=10cm]{run10-S02.EPS}

ランー10のビーム電流5 mAと弱いので、効果が見えにくくなっているが、何かが変化した事により、ランー10の波形が得られている事、そしてその結果はランー8とは大きな差があるらしい事は読み取れると思われる。


next up previous contents index
: 2.1.4 チョッパーの動作 : 2.1 ビームスタディ結果:2007年前半のスタディからの改善 : 2.1.2 加速電場ー2   目次   索引
萠タ 髫蛛Aォ ハソタョ19ヌッ11キニ