しかしである。ここで状況をよく考えてみよう。低エネルギー部分の調整をいい加減なままで、このまま更にスタディを進めた時の結末の方が、実は怖かったのではないか。リニアック自体の基本能力が高過ぎる為に、低エネルギーミスマッチ状態のまま最終エネルギーまで加速を行っても、そうした事に気付かない事がありうると、逆に証明されてしまった。ミスマッチングは、その効果が顕著であると通常は云われており、こうした事態は通常では考えられない事と思われる。その意味で、今後、どのように注意深くスタディを行えば良いかの一つの指針が得られて幸いであった。ワイヤースキャナーの帯電は天罰ではなく、天佑というべきであろう。
ワイヤースキャナーには、欠陥があったのか、あるいはビームが壊したのかは興味深い所であるが、とにもかくにも、そのお陰でありあまる程のスタディ時間を使って、これまで軽視して来た部分のスタディをやらざるを得なくなっている(6月21日までは、低エネルギー部スタディを継続中)。天佑と受け止めて、充分な成果を挙げてもらいたい。
しかしながら、測定機器の精度の問題が解決されていない場合には、相当の工夫が必要となるとも推定される。2006年末のビームスタディ開始時に見いだされたいくつかの測定系の問題(筆者にはあると見えたが)が、この半年の間に改良されているならば、同じ事を行っても、おおいなる成果が期待できるだろう。
半年に渡るここまでのスタディ経過を見ると、基本的な考え方はあまり変化していないようなので、かつての発言を引用して、参考にしよう。基本姿勢はビームスタディ結果の様々な所に垣間見れる。これらは2002年6月6日の会議のメモ中にあり、記憶されている方も多いのではないか。
第1項は、DTL入射のマッチング確認の重要性に対する思慮に欠ける故の発言と思われる。
第2項は、何の根拠もないにもかかわらず、思い込みが強過ぎる事による誤った独善的な主張の一例である。この直後のチョッパービームスタディ結果は「チョッパーのチューニングとビームスタディ結果(2002年)」に示してある。このような考えであるならば、今回の半年にわたるビームスタディにおいて、チョッパーの詳細なスタディ計画なぞは思いもしないだろう。T氏が指摘するように、DTL系のチョップビーム加速には新たな問題が起こり得るのである。なお、SNS静電型チョッパーが備え持つ特徴については、現況を「SNS チョッパーレポートについて」に記したので、比較するとよいだろう。
こうした背景があった事を考慮すれば、5月のラン7まで存在したMEBT軽視による入射ミスマッチは、理由があって生じた事と推定される。それまでの長時間にわたるスタディで蓄積したデータの、基本的な意味と重要性は消失してしまった(故に再スキャンを含めて全てのチューニングデータを取り直しているのである(6月22日現在))。実務に携わってきた方々にとっては残念な結果となってしまったが、これからの長期の運転を見据えて、スタディ計画の基本の考え方を練り直す良いチャンスでもあろう。スタディに関与される方々は、自分にも関わる問題として考えていただきたいと思う。スタディの基本的な考え方に過ちがあれば、今回のようにその弊害が大きくなる場合が有り得るのである。
6月22日記