J-PARCリニアック400 MeV増強について
J-PARC陽子リニアックのエネルギー増強計画の概算要求を20年度に行うとのメイルが配信された。
- 2007年6月28日 (木):Subject: [jk-acc:03430] 第1回J-PARCリニアック400MeV増強検討会を予告する配信メイル
筆者のコメント:ここまで来るには関係者の尽力大と拝察します。J-PARCは日本の加速器ですが、その規模は世界的なものです。従って、その大規模なアップグレードに際しては、世界に比肩できる加速器として、最高のパフォーマンスを達成できるように慎重な検討と実績を踏まえて作る必要があると思われます。そうした観点から、リニアックに関する問題点についての意見を述べます。
- リニアックエネルギー増強の目的
リニアックエネルギーを181 MeVから400 MeV にする理由は、RCSにおいて1 MWのビーム加速電力を達成する為である。強いビーム強度になれば、ユーザーの利用価値が高まるとの事である。その時のリニアックビームパラメータは以下の通り。
RCS ビームパワー | 0.6 | 1 | MW |
リニアックエネルギー | 181 | 400 | MeV |
リニアックピーク電流 | 30 | 50 | mA |
リニアックパルス長さ | 500 | 500 | マイクロ秒 |
繰返し周波数 | 25 | 25 | Hz |
上表より、このアップグレードは、イオン源のピーク電流55mA程度(低エネルギー部でのビーム損失を含む)を必須の前提条件として、リニアックの出力エネルギーを181 MeVから400MeVとするものと云えよう。
- リニアック延長にはどんな技術的問題点が考えられるか
- リニアック延長を今始める事は、拙速、且つリスク過大の可能性はないか。最大出力に到達する近道は何か。(1MW 到達の為に)
結論
2007年現在のリニアックエネルギー増強計画は、これまで述べたように、解決には相応の知恵と努力が必要な複数の仮定の上に、成立している。それらの仮定の中の一つが実現しない場合には、単にリニアック出力エネルギーを高めて、後続の加速過程を一層難しくする結果を生む可能性さえ否定出来ない。現存する世界の同様な加速器では、入射しやすさを考えて、リング入射エネルギーを低く設定している。それに反して、入射エネルギーを高くするからには、それなりの基盤技術が確立されていなければならないが、現状では明るい見通しはない。従って、2007年現在においては、必要となる加速器技術の観点からみて、リニアックエネルギー増強計画の概算要求は時期尚早であり、延期が至当である。内に力を蓄える方策を、優先すべきである。